美味い食事と森林浴と。完結編

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〜パート3より続く〜

クネクネとした山道を登るにつれ、周囲に建物はなくなり、深い山に。
期待感もハンドルを切るたびに高まっていきます。

「あっ、ちょっとだけど紅葉も始まってるね」
「そうだな。こりゃ頂上は期待出来るんじゃないか? モモラテも喜ぶぞ、きっと」

車内は穏やかな会話。
「煙事」の食事ですっかり機嫌を直していたmamaにも笑顔が戻っていました。
フロントガラスのヒビの進行もピタリと止まり、もう気にならなくなっていました。

きっとあと20分も走れば、素晴らしい高原の景色が広がっているはず!
モモラテもそこで飛び跳ねるように走り回るんだ…。

妄想はますます膨らむのでした。

しかし、しばらくすると後部座席のmamaが静かに。
バックミラーで見ると、腕を組んで目をつぶって上を向いたまま微動だにしないのです。

なんだ、疲れて寝ちゃったのか。まああれだけ怒れば疲れるだろうし、お腹いっぱいになって睡魔が襲って来たんだろう。なーんだ、かわいいとこあるじゃんか。

さらに山深くなっていく車窓の景色を堪能しながら、僕はしばし無言で車の運転に集中していました。

こんな素晴らしい景色を拝めないなんて、mamaもドジだよな。でも頂上に付けば起こしてやるか。きっとそこは最高の景色だろうからね。それまで寝かしてやろう。ああ、オレはなんて優しい男なんだろう…。旦那の鏡だな…。いや、男の鏡だろうな…。

ニヤニヤしながらアクセルを優しく吹かし、ブレーキを踏むときも細心の注意を払って…。もちろん、ライン取りも完璧。流れるようなコーナリング…。ああ、オレは車の運転も天才だ…。そもそも、荒っぽい運転で同乗者を車酔いさせるなんてもってのほか。紳士的な運転で、ぐっすり眠らせることこそ男の美学なのだ…。

悦に入りながら、再びバックミラーをチラリ。
そこには、やはり目をつぶって微動だにしないmamaの姿。
きっと愛する夫の運転に全幅の信頼を置いているのだろう…。

しかし、よ〜く見ると、眉間に皺。
顔色も、なんとなく青白い。

異変を察知した僕は、思わず「どうかした?」とポツリ。
そして、返ってきたのは、信じられない言葉だったのです…!?




「酔った。運転ヘタ過ぎ。気持ち悪いから、しばらく話しかけないで!!!」





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なんでやねーん!!!!!!!





なんともやりきれない気持ちで頂上に到着。そこには、想像していた夢の高原世界はなく、小さな駐車場とホテルがあるだけ。
確かに景色は素晴らしいのだが、観光客がいっぱいで、車もいっぱい。
道路と駐車場の下は絶壁で、とてもモモラテを放せるような状況でもなく、リードをもってトボトボと駐車場の周りを歩いただけで写真を撮る気も起こらず。
mamaは車の中で完全にグロッキー状態。
いちおう湿原やハイキングコースもあったみたいだったけど、具合の悪いmamaだけ車に置いて行くわけにもいかず…。

そそくさとモモラテを車に乗せ、出発。

来た道をそのまま戻るのもつまらないので、反対側、嬬恋村の方に下りることに。

しかし、すぐに道路が車幅くらいのガタガタ林道となり、慌ててバックで引き返す。
mamaはビニール袋を片手に、その目には怒りと悲しみと気持ち悪さが溢れて…。

ああ、今日は何をやっても上手くいかない!

焦る僕の目に飛び込んできたのは、アサマ2000スキー場駐車場の文字。
とりあえずそこに向かうと、誰もいない広い砂利の駐車場が現れました。

想像した高原の景色とはほど遠いものの、とりあえずモモラテはノーリードで走ることができたのでした。



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せっかくフリーになれたのに、車の中のmamaが心配なのか、いつものはっちゃけぶりがまったくない二人。心無しか車の方を気にしてるようなそぶり。

こいつら、なんて優しいんだろう…。



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しばらくするとmamaが外に出て来て、深呼吸しながらゆっくり歩き出しました。
モモラテはmamaの後ろを離れようとしません。僕が呼んでも…。


「外の空気を吸って、だいぶよくなったかな。ごめんね、papa。これじゃぁ湯川ふるさと公園のドッグランに戻る頃には真っ暗になっちゃうね。行き先が八ヶ岳から軽井沢に変わったときから楽しみにしてたのにね」

高原の森に沈む夕陽を眺めていると、「まあこんなのもいいんじゃないか」と感じられてきました。
フロントガラスに当たった飛び石も、車に酔ったことがないmamaが酔ったのも、全てが必然だったような気がしてきました。
あのまま高速を走っていたら、もしかしたら事故っていたかもしれない。
mamaとケンカしなかったら、「煙事」の素晴らしい料理は食べられなかったわけだし、mamaが車酔いしていなかったら、山の中で事故っていたかもしれない…。

そういうふうに考えたら、「全てがOK」と思えてきたのです。

「こいつら、完全におまえのこと気遣ってるよな。ちょっと悔しいな。でもね、すべてはモモラテのおかげだよな。そもそも、こいつらがいなかったら軽井沢にだって一生来なかったかもしれないし、いろいろな出会いもなかっただろうしね。そもそも、オレら二人だってとっくに離婚してただろうね」
「あ、それってまた失言じゃない!?(怒)」
「ギクッ! 今日はもうカンベンいてくれよ〜!!!」

砂利の駐車場でも笑顔で歩き回った二人は、車にピョンと飛び乗ってすぐに深い眠りに落ちてゆきました。


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途中、mamaが酔わないよう休憩しながら山をゆっくり降り、湯川ふるさと公園の駐車場に着いた頃には、すっかり辺りは真っ暗になっていました。

「やっぱり真っ暗になっちゃったね。誰もいないし…。でも、なんだか私達らしいね(苦笑)」

3カ月前のこーすけさん達との楽しい思い出に浸りながら、眠っていたモモラテを起こして街灯を頼りに芝生の上を少しだけ散歩。すっかり冬めいた冷たい風に吹かれながら、愛しい軽井沢を後にしました。

ああ、早く雪が降らないかなぁ。
でもね、もしかしたら今年の冬は軽井沢に来られないかもしれないんだ。
まあそしたらまた来年があるさ…。

ー 完 ー
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by kosato7k | 2008-10-07 23:03
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